世界はまだ君を知らない
「っ……悪い、店戻る!!」
「え!?仁科店長!?」
俺はそう席を立つと、その場を勢いよく駆け出した。
もう帰っているのだとしたら、それでいい。
けれど、もしもひとり怯えてしまっているのなら、その肩を抱きしめたいとこの心は願うんだ。
最初はきっと、重ねていた。
君と彼女を重ねて、純粋に力になりたいと思っていた。
だけど、その涙に思ったんだ。
ひとりで、泣かせたくない。
涙も笑顔も、抱きしめたい。
信じてもらえなくても、伝わらなくても、この心に込み上げる想いはただひとつ。
なんと言われようと、君が好きだ。
その想いだけを胸に、スーツも体も濡れることもかまわず、大雨の中を駆け抜けた。