世界はまだ君を知らない
第五章(番外編)

◆約束しよう




強い雨風と激しい雷に見舞われた、あの夜。

都内では一部で停電が起こり、多くの人が帰宅困難に陥り大変な思いをしたという。



けれど、その夜のおかげで想いを伝え合うことができた私と彼は、上司と部下としてではなく、恋人として幸せな毎日を過ごしている。



……かと、思いきや。



「千川。背筋が曲がってる。やり直し」

「は、はい……!」



それから5ヶ月ほどが経った、7月の終わり。

冷房がよく効いた店内の一角で、私は仁科さんに叱られながら背筋を伸ばし、接客対応の練習に追われていた。



仁科さんがこの店に来て半年以上。

指導を受け続けスタッフ全員大分よくなってきたものの私はやはり少し気を緩めるとつい猫背になりがちで……。

仁科さんは今日も店長として、厳しい目を私に向ける。



「仁科店長、電話でーす」

「あぁ、わかった」



レジの内側から声をかける藤井さんに、仁科さんは受話器を受け取り電話を代わる。

その合間に「怒られちゃってたねぇ」と声をかけてくれる松さんに苦笑いを見せながら、その姿をちら、と見た。



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