SNOW

所有欲

今思えば、儚く散る事も悪くなかった。
それはそれで、桜のように淡く、綺麗なモノなはず。
私は幼かった。
だから、ねえ、これは間違った選択だったの?
誰に問いかけても誰も答えてくれない。これは、私の人生だから。



「…あの、その人は、」
「あ、え、えっと、この人は僕の前の職場の先輩…といっても同い年なんだけど、ゆかりさんっていうんだ。」
「橘ゆかりです。夢ちゃんがお世話になってます。」
「お世話って…はあ。…今日はゆかりさんも呼んでみたんだ。依子ちゃんに紹介したくてさ。」
「…天宮依子です。」
「依子ちゃん。可愛い子だね。ねえ、こっちきて一緒に食べよ?」

なんだろう。向居さんの顔が心なしか赤い。

――――――――――――ああ、そういう事か。

「ああ、ゆかりさん飲みすぎないようにしてくださいよ??…酔ったら送ります、けど…いやそういう事じゃなくて、えっと…」
依子は気づいた。

多分、向居夢は橘ゆかりに惚れている。

「…私お邪魔じゃないですか?」
「ええ!?そんな事ないよ!早く座って、一緒に食べよう!ね!」

わかりやすい。

「あ、夢ちゃんってケッコー食意地はるほうなんだー。そんなに早く食べたいの?」
「えええ!?ち、違いますよ!ほ、ほら依子ちゃん座って座って!」

しかも結構お似合いだし。

「…失礼します。」
「うん。あったかいうちにどーぞ!」


依子は心を抉られる思いでいっぱいになった。
ああ、初恋が成就しないって本当だったんだな。
でも…
こんな気持ちになったのは初めてだから――――――

「はーーーあ。ちょっと飲みすぎちゃったなー。」
「ほら、ゆかりさんの悪い癖出た。…お酒買いすぎなんですよ、しかも全部飲んじゃうんだもん。」
「だってえ。可愛いお客さんきたし?飲まないわけにはいかないでしょ。」
「あ、ゆかりさん煙草ダメ!ベランダで…」
「わかってるよー。あ、依子ちゃん」
依子は不意に名前を呼ばれてびくついてしまった。
「…え、はい、なんでしょう」
「ちょっときて」
「…??はい。」

ガララ、とベランダに女二人がでる。向居はあきれつつ、しかしどこか楽し気に後片付けに精を出している。

「寒いわねー…。」
「…私に何か?」
「ん?いやー…、」
ふーっと紫煙を吹き出す。
その仕草は同じ女性からみても美しく、なんだかかっこいい。初対面では可憐な印象だったが、酒のせいで軽く人格が変わったような気がする。
「依子ちゃん、夢ちゃんのこと好きなんでしょう。」
「ぶっ…!!!!」
「あはは、かわいい。好きなんだー。」
「…なんでわかるんですか」
「だって、依子ちゃん分かりやすいんだもの。顔に出てる」
「…でも、多分叶いません」
「そうね」
「…え…?」
「だって夢ちゃん、私の事好きだもの」
「…!!」
「依子ちゃんと夢ちゃんって似てるわ。顔に出やすいとこ、純情そうなとこ、真面目そうなとこ…
―――――夢ちゃんはね、私しかみてない」
「…そう、ですか。」
「私は夢ちゃんのことは何とも思ってないわよ」
だから安心して、応援するわ。
「でもね」
煙草の火をくしゃっと消し、依子と向き合う。
「夢ちゃんは、あなたにあげない」
「…!」
「なんでだかわかる?」
「…なんで、ですか」
「所有欲」
「…は」
「私に好意を抱いてくれてる人は何人もいるの。私はその気にさせて、その人の人生をかき回したいの。そして想われてるっていうだけでぞくぞくするの。そういうの、あなたにはわからないでしょうけど」
「…っ全然わかりません!!なんで「ど、どうしたのー…?喧嘩…してる?」
「あ、夢ちゃん。ちがうよー。それよりやっぱり酔いすぎちゃったみたい。送ってもらってもいいかな。ごめんね?」
「…いいですよ。依子ちゃん、ごめんね、今日はここでお開きにしよう」
「…」
「依子ちゃん?」
「はい。私、かえります。」
「ごめんね。じゃあ、ゆかりさん送ってくる。」

「依子ちゃん、またね。今度は女子会でもしようね!」



すれ違う瞬間、ゆかりは口角をあげた、気がした。
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