SNOW

欲求

雪は降り続いていた。
何もかもを真っ白に染め上げるように。
ああ、私のこの気持ちも白く純粋に染めてよ。


転校生が、依子に頻繁に話しかけるようになって3日。
「ねぇ、依子ちゃん。シャーペン落としちゃった。拾ってくれる??」
「ねぇー、依子っち、次の授業って移動教室だよね?どこだっけ」
「ねぇねぇ「いい加減にしてくれる」
「あ、やっと口きいてくれた。今日はじめてー。怒った顔も可愛いよ」
「…いやがらせ?」
「やだなあ違うよ。純粋なキョーミ。可愛いってのもあるけど。あ、誤解しないで?モノにしようとそういうヨコシマな事は思ってないから。」
「そう。じゃ、私帰るから。あなたもさっさと帰ったら?」
「冷たいなぁ。あ!一緒にかえろーよ。方向一緒なはず。」

依子は重くため息をついて、腰をあげた。
「私は一人で帰ります。あなたのお守りを頼まれた覚えなんてないし、本当にいい加減にして。」
依子らしくなく、声を荒げた。
すたすたと教室を出ていく姿を空はにやにやした顔つきで手をひらひらと降り、見送った。

「あーあ。行っちゃった。
兄貴に優しい子だから頼れって言われてるのに。
…この事、兄貴知ったらどう思うだろうなー…なんてね、面白いから言わないけど。」


依子は生暖かい風を受けながら憂鬱な面持ちで帰路についた。
…と思った。

「あ!依子ちゃん、久しぶりだね。」
向居夢が玄関前でスーパーの紙袋を必死に持ちながらご丁寧なあいさつを交わした。
「!!??…あ、えと、向居さん…。」
「そうだよー向居さんです。でも夢って呼んでほしいな、これからは。」
「?えと、向居さんは向居さんです。」
「いやいや、僕もここ越してからだいぶ経つし、フレンドリーな感じでさ、ね、夢くんでも夢ちゃんでも!」

へへへ、と笑う。

―――ああ、私、こういうの、弱い。
好き。
好き。
好き…。

「…夢さん」
「うんうん!それでいいよ!へへ、一気にお友達だね。
あ、良かったら今日晩御飯うちで食べない??こう見えて料理には自信あるんだ。」

依子はさーっと音が流れるように血の気が引いてゆくのがわかった。
嬉しい。でも男の人と二人きり…

「だめかな?予定とかあったり…する?」
「…あ、いえ、大丈夫なんですけど、…お邪魔、しちゃっても??」
「ぜんっぜん大丈夫!むしろ大歓迎!色々お話しながらあったかいものでも食べようよ。」
「…では、お言葉に甘えます。着替えてきますね」
「うん!いやー、依子ちゃんは素直で良い子だねぇ」

わしゃわしゃと依子の髪を雑に、でも優しく撫でる。

心臓が張り裂けそうだ。嬉しい気持ちとどこか恥ずかしい気持ちとが混ざり合っておかしくなりそうだ。
もっとこの人の事を知りたい。もっとこの人と話したい。
一緒に居たい。少しでも傍に居たい。

依子は取り返しのつかない感情に支配されていた。
もう、後戻りなんてできないと思った。
今まで恋愛に億劫だったのが嘘のように、固かった気持ちがほぐれていく。

これが、恋なんだ。

「あ、そうだ、依子ちゃんに紹介したい人がいるんだ。その人とも仲良くなってくれたら嬉しいなあ」
「え?」
「とりあえず着替えてきて。話はそれから!」
じゃあね、と手を振り、パタンと扉が閉まった。
「…誰だろう…」


依子は着替えを済ませ、夢の部屋へ向かった。

「依子ちゃん!早かったねえ。もう少ししたら出来るから!今日は雪が降ってて寒いでしょ、寄せ鍋作ってるんだよ。おいで。」

お邪魔します、と部屋にあがった瞬間。

見たくないモノを目にしてしまった。


「あ、夢ちゃん、その子?お隣さん。」


髪の長い、すらっとした小奇麗な線の細いきれいな女性。




依子は察してしまった。
ああ、この人は、
この人は…。
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