腹黒エリートが甘くてズルいんです
心の中ではどぎまぎしつつも、折角まとまった気がするので、余計なことは言わずに黙っている。

これだけバカにされたのに、暇潰しに嘘をつかれたのに『もう一度会えてよかった』なんて。未練がましかったかな。

でも、本当なんだもん。



「……仲田」


なに? と答える前に、目の前に酒井君の肩がある。
……なんで肩? と思うと同時に抱き締められかけていることに気づき、思いきり避ける。

高級車のシートは広くてふかふかだわ、と思ってはいたけど、大の大人が二人でいて、一人を避けようとするにはあまりにも狭いスペースだと実感する。


「どうしたの、なにやってんの、なんなの」


畳み掛けるように言いつつ、身体をなるべく離す。


「……なんだと思う?」


意地悪そうに笑う酒井君。怖い。


「……さあ?」


キスするかと思いましたなんて、口が裂けても言えない。
大体あたしは、自意識過剰なんだよね、出光先輩にも、告白されると早合点したりして。

……なんて、過去を振り返っている余裕はないないない。
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