腹黒エリートが甘くてズルいんです
怖かった。
自業自得以外の何物でもないんだろうけど、でも。

凄く怖かった。
好きでもなんでもない人にヤられるなんて、何歳だろうが嫌なものは嫌だ。

酒井くんが、目の前にいる。
助けてくれた。

もう大丈夫なんだ、と思ったら、今度は自分でもはっきり分かるほどに涙が出てしまった。


「あーもー、分かったから。て言うかあれだよね、なんか俺達、色々噛み合ってなくない?」


「何がゲームで、どれが本当か、わかんないよ……」


お尻と手と足が冷たいな、と思いながらも動くことが出来ないままでいると、座り込んだまま酒井くんに抱き締められる。


酒井くんに触れたところだけ暖かくて、安心する。
何だか分からないけど、知っているような香り。
そういえば、嗅覚と記憶の場所が脳内で近いから、匂いは記憶を呼び起こすのに有効なんだっけ……?などと、しょうもないことを考えながら、極度の緊張感と不安感から解放された安心からなのか、段々と意識が遠のいていくのが分かった。

遠くで、嘘つきな酒井くんがあたしを呼んだような気がした。
< 192 / 227 >

この作品をシェア

pagetop