腹黒エリートが甘くてズルいんです
その椅子から、明らかに不自然に長い足が飛び出ている。


「……さ、酒井くん……?」


そうであってほしいような、ほしくないような。
願いを込めて、ベッドの上からそっと呼んでみる。


「んーー……んぁーーーーー……ああっ!」


がば、と身体を起こした人物は、やっぱり、というかなんと言うかへろへろの酒井くんで。


「……おはよう」


この期に及んでまずはきちんと朝の挨拶をする酒井くんが、かわいいとまで思ってしまう駄目なあたし。


「お、はよ」


まさか、酒井くんと起き抜けの『おはよう』を言い合う日が来るなんて。
……ちょっと、思い描くような普通のパターンではないけれど。

「お前、何意識無くしてんだよ! 死んだのかと思ってびびったら、スースー寝息たてやがって。運ぶの地味に大変だったからな! 俺、襲いかかったりしてないからな! 意識のないやつにそんなことする趣味ないから! 深夜だったし、ビジホのシングル一部屋しか空いてなくて……」


覚醒すると同時に一気に色々捲し立てる酒井くん。


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