腹黒エリートが甘くてズルいんです
強目に言い切ってから、しまった、と思う。

酒井君の顔から穏やかな笑みが消えていたから。どこの言葉が引っ掛かったのかは分からない。でも、あたし、間違ったことは言っていない……よね?


「仲田……」


「は……い」


なんなんだ、この空気感。あたし達、さっきまであんなに楽しかったのに。
何でこんなことになっているの?

無表情にも見える酒井君の整った顔からは何も読み取れない。


「……とりあえず、お前が35歳までに結婚出来るような作戦、思い付いたら連絡する。じゃーな」


えーーーっと?
さっきのキスは、もう話題にするにも値しないと?

あたしのこの憤りはどこにぶつければいいわけ?


ぽかんとするあたしをよそに、すたすたと駅とは違う方向へ歩いていってしまう。

その後ろ姿は、確かに酒井君なんだけど、何だか違う人みたいに見えた。


そして、とんでもないことに気づく。


あたしは酒井君のこと、本当に何も知らないんだな、と。
< 85 / 227 >

この作品をシェア

pagetop