金魚の見る夢


不意に鳴る着信音は心臓に悪い。

ジャージでソファーに寝転んでいた私はビクリとしてしまいました。

午後の緩やかな時間、小説を読んで過ごしていたらつい集中してたみたいで。

ノロノロと携帯を手に取るとメールが一件。

駿河監督から。

前のメールから一週間放置してしまいました。

画面には『明日、暇ですか?』

タイトルも無し。

少し考えてメモリーから『監督』を捜索。

エイっ!と発信ボタンを押す。

1、2、3コール目で繋がる。

『はい、駿河です。』

渋い声だ。自分も役者すれば良いのに。

「鈴里です、今大丈夫ですか?」

淑やかに淑やかに。

「ええ、メールの件ですね。」

そりゃそうです。

「明日は特に」

「デートでもしませんか?」

監督の痩せた髭面を思い起こし、失礼ながら少し吹く。

「ダメですか。」

メールなら右下がり放物線矢印(青)が入る所かな。
「いーえ、嬉しいです、でもまだ決まって無いから出演交渉込みなら断りますよ。」

「目的の1割を失いましたがそれでも価値大ですね。」

おや。

「嬉しいです。」

「昼飯からどうです?」

夜かと思ったから意外。

「良いですよ。」

「じゃあ11時頃に迎えに行きます。」

「車ですか?」

「恥ずかしながら。」

何が恥ずかしいのか良く分からないけど。

「楽しみに待ってます。」

アパートの位置をメールで伝える約束をして切ボタンを押す。

ワクワクしている自分が少し可愛い。

現在地とアパート名前をメールで送信。

さて、取り敢えずは小説の続きでも読んで落ち着くかな。

でも明日、何着てこう。
< 62 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop