金魚の見る夢


「で、リハーサルで室積さんが入れたアドリブの『くたばれ』って台詞が良かったから採用した訳です。」

「それが、CMとかで使われて有名になったんだ。」

フンフンと監督の映画談議に相槌。

桜舞う夕暮れの公園。そこで白いワンピースを纏った少女が突き出した腕の先、グイと親指で大地を指す『花音』のポスター。

可憐な唇からはそんな台詞が出ていた。

主人公を演じる室積志津流は、見事に不安定に揺れる少女、高崎花音を演じた。

「原作、素人が書いた携帯小説って言うから、期待してなかったのに裏切られたなぁ。」

真奈美が遠い目付きで呟く。

「素人と言ってもK大文学部の娘だった訳ですがね、まあそこも面白かったから採用した訳です。」

あら、監督も程よくアルコールが回って来た様子。

「ささみの天ぷらチーズ挟み頼みたい、何かついで有る?」

私の問いに真奈美が素早く反応。

「若鶏タタキと焼酎お湯割。」

「じゃあ、ホッケと生。」

監督は答えてから相澤を見る。

相澤は半分ほど入ったビールジョッキを掲げ今は良いの意を表す。

「大将、オーダー。」

カウンターの向こう、笑顔の飯田氏に注文を告げる。

因みに私は梅酒も追加。

「はあ、改めて凄いなあ。」

「何、のろけてんのさ。」

注文を終え、監督を見てつい呟いた一言に真奈美が突っ込む。

「いやいや、何て言うかその。」

つい、シドロモドロ。

「でも僕、鈴里さんに出演オファー断られたんですよ。」

監督の言葉に真奈美が顔をしかめる。

「ああ、その付き合う為の餌とか、そういうのじゃ無く、純粋に鈴里さんのキャラにひかれてですね。」

慌てる監督に真奈美が詰め寄る。

「じゃあ、二人は付き合ってると云う事で宜しいのですね。」

その手は架空のマイクが握られ、こちらに向けられている。

「少なくとも僕はそのつもりです。」

キリリと宣言する監督に顔が熱くなるのを感じた。
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