大人にはなれない

「あかちゃん、つぎはおきがえしますよー」

そう言ってひまりは俺がパジャマ替わりにしているTシャツを脱がしにかかり、次にもうサイズが小さいのに無理やり履いていた、小学生時代のジャージのズボンまで脱がせてこようとする。

「おい、ひまりっ、やめろって」

あわててウエストで押さえると、ひまりは不満げに頬を膨らませる。


「ひまりママだからおせわできるもん。あかちゃんのおきがえするの!!」
「わかったわかった、それはわかったから勘弁してくれよ、こんなデカい赤ちゃんいたら気持ち悪いだろ?!他の遊びにしよう」
「あかちゃん、ずぼんぬぐの!!ひまりがおせわするの!!」


ひまりはちびっこらしい頑固な我が儘さで、あくまでお世話ごっこをやり通そうとする。

俺のデカい体格でそんなマネすれば(絶対しないし、させたりしないが)、絵面的には「おままごと」じゃなくて「介護ごっこ」っていう夢のない遊びをしているように見えるだろう。……いろんな意味で嫌すぎる。


「ダメ、それやるならおままごとはもう終わりだッ」
「そんなのつまんなぁいっ。じゃあみっくん、いぬのやくやって!いぬのやくやってくれるならいいよっ」
「えっ、犬?……ペットの?」
「そう!」


ここにいもしない斗和は永久にお婿さん役だというのに、俺は人間の役にすらさせてくれないのかよ。


「いまからみっくん、『わん』しかしゃべっちゃダメだからっ」
「わかったわん」
「だからしゃべっちゃだめ!『わん』だけなのっ!!」
「……………わん」


ミルキーモモって無駄にファンシーな名前を付けられた俺は、「恥ずかしい」だとか「やってられるか」だとか「つれぇ」だとか、湧いてくるあらゆる感情を封じて投げやりに「わんわん」言い続ける。

3歳児の女の子と遊ぶのは、他のどんな授業やテストよりはるかにハードだと思うのは俺だけなんだろうか………?

そんなことを思っているうちに、団地の清掃当番に行っていた由愛が帰ってきた。


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