潮風の香りに、君を思い出せ。
第二章

自転車を飛ばして

大地さんが前に使っていた自転車が置いてあったので、二人乗りであかりさんのお店に行くことになった。

知らない人や知らない場所はなかなか手ごわいんだけど、大地さんが一緒に行ってくれるなら大丈夫だろう。駅前の海までだったはずが、一日掛かりのお出かけになってきていて不思議に思う。探検みたいな気分なのか大地さんも楽しそうだ。

あとでお姉ちゃんに話したら驚くだろうな。怒られないよね、素性のわかってる人が一緒なわけだから。今のところ途中ではぐれてもない。



そうだ、万が一はぐれても戻ってこられるようにしておこうと思い立つ。

トイレに行ったときに、携帯のGPSマップにこの家の地点をこっそり登録した。堂々とやってもいいけど、迷子になりそうなだとびびってることをできれば知られたくない。



大地さんは、ベージュのワークパンツに黒のTシャツ、チェックのシャツを腰に巻いている。ビニールじゃなくて、普通の斜め掛けのバッグを左肩から掛けている。住んでいないとはいえ、自分の部屋が普通にあるので色々とおいてあるみたい。

この格好を改めてしっかり記憶する。顔もそろそろ覚えてきた気がするけど、見つける時には服のほうが正確。



あかりさんというのはお友達なんだろう。なんのお店かは言ってなかった。海だからサーフショップとか? もしくは地元商店系で八百屋さんとか? 大地さんは説明してくれる様子もない。まあいいか、行ってみてのお楽しみにしよう。



香世子さんは「あかりちゃんによろしくねー」と玄関で明るく送り出してくれる。



私がピンクのビーチサンダルを履いたら、「じゃあ俺も」と大地さんもビーサンのままで行くことに決めた。スニーカーも置いてあるみたいだけれど、また海辺に行くならやっぱりこれだよね。

今日はやけに暑い日だから、尚更だ。
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