潮風の香りに、君を思い出せ。
大地さんが自転車にまたがって、私は後ろの細い荷台に横座りに座って、どこにつかまったらいいか考える。

結局左手は荷台の後ろ、右手はサドルの後ろのほうをつかんでいたら、走り出した後で大地さんから指示があった。

「できれば腰につかまってて。揺れると漕ぎにくいから」



そうなんだ、確かに荷台が細くてぐらぐらする、これ。二人乗りってあまりしたことないから勝手がわからない。

右手でそうっと腰のあたりの服をつかんだら、「うわっ」と大地さんが叫んで身体をよじりぐらりと揺れた。

「きゃぁっ」と叫びながら私も飛び降りた。無事着地。驚きはしたけれど、今回はどちらも惨事にならなかった。



「ごめん、大丈夫?」

しゃがみ込んだ私に、自転車にまたがったまま左手を差し出してくれる。

「大丈夫です」

よかった、膝でもすりむいたらみっともなさすぎる。ショーパンだから丸見えだよ。

大地さんに手を引いてもらって立ち上がる。

「ちっちゃい手だね」

「こんな小さいから絶対に背も大きくならないと言われてた割には、人並みに育ったんですよ」

手も身体も大きな人に無駄な抵抗を試みたら、「がんばったね」とほめられて返ってバカにされた気分になる。



「すみません。私つかむところ違ったんですよね」

「くすぐったくって。ごめん。もうちょっとこうやってしっかりつかまってくれる?」

片足だけついて私をまた後ろに座らせて、私の右手をつかんで自分の腰に回すと、ギュッと抱き着くみたいに捕まるようにと言う。

そういえば、背中にあったはずのバッグは身体の前に回しておいてくれている。つかまってもじゃまにならないようになんだ。

今度はうまくつかまれたみたいで、「よし」と私の手の甲を軽く叩くとまたペダルを漕いで走り出した。



重たいはずなのに、速い!

風が吹いて気持ちいい。
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