潮風の香りに、君を思い出せ。

イライラしたけど

乗せてもらったあかりさんの車は、車種はわからないけど内装に気合いが入っていた。

ステアリングが木製に変えてあって、フワフワしたラグがシートに引いてありいい香りもする。カーアクセサリーも幾つか置いて、若すぎる感じになりそうなところをさすがにオシャレにまとめてある。

助手席に座りながら「かっこいい」と呟いたら、「そう? わかってくれる?」とあかりさんは嬉しそうだった。



「なんで俺後ろ? 運転させてよ」

大地さんが座席の隙間から顔を出し、何度目かの無駄な抗議をしている。

「私の車は私が運転するし、お客さんの七海ちゃんには隣に座ってもらいます。だから大地は後ろでゆっくりしてなさい」

さっき疑ってしまったけれど、浮気ではない気がしてきた。あかりさんの方が圧倒的に上位にいる感じもする。そういう関係性もあるのかもしれないけど。

うがった目で見れば、肩に肘を乗せたり、私にセクハラしたんじゃないかと茶化したりする全部が、親しさを示してるような気もする。



どうだって関係ないよね、私には。

ナナさんともあかりさんとも長年の関係で、私は今日拾ってきただけの後輩で、今日が終わればもう会う機会もない。




後部座席でふてくされた大地さんを放っておいて、あかりさんと二人で話す。開けた窓から潮風が入ってきて、気持ちいい海辺のドライブだ。

「小湊に住んでたの?」

「はい。小三ぐらいの時に。たぶん結構短くて急に転勤になっちゃって、よく覚えてないんですよねその頃のこと。小湊って地名もさっき姉に電話で聞いて」

「お姉さん? おかあさんじゃなかったの?」

大地さんが驚いたように後ろから割り込んでくる。あ、そうだ、言ってなかった。

「母は私が一人で遠くに行ったら心配しちゃうし、よく知らない先輩についてくとかもたぶん嫌がるんです」

「そうなんだ。大丈夫?」

大地さんは心配そうに聞く。今更そんな風にされてもなぁと苦笑する。

「隠してるわけじゃないので、大丈夫。姉から伝わるんです。お姉ちゃんは賢くて、信頼されてるから」

「お姉ちゃんとはいくつ離れてるの?」

あかりさんにも続けて聞かれる。

「二才上です。この春に就職しちゃったんですけど、さっきちょうどお昼休みだったから電話に出てくれて助かりました」

そう、お姉ちゃんがいるから、なんとかやっていけてるんだ、私たちは。お母さんも、私も。
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