潮風の香りに、君を思い出せ。
「そうか、お姉ちゃんも私たちより年下なんだね。なんか年取った気がする。七海ちゃんて話してるとそんなに年下っぽく思えないのにね」

「そうなんだよ、話し方はしっかりしてるのに、なんか抜けてるところもあるから面白がられるんだろうな」

なぜか私の評価を二人が話し合っていてうろたえる。しっかりしてるなんてあまり言われないけど。

「大地が面白がってるだけでしょ。あんたよりしっかりしてそうだよ」

「いや、サークルでさ。結構いじられてるんだよ、この子」

やだ、大地さんはサークルの話をしてるんだとやっとわかった。

そう。一年の時はよく先輩達にからかわれていた。似ている人達がわざとウエアを取り変えたりメガネを交換したりして、ちゃんと呼んで来られるかどうか試されたり、暇つぶしにからかわれていた。

うまく行くときも引っかかるときもあったけど、あの頃はみんながそういう私を受け入れてくれてるんだと勘違いしていた。

半年も過ぎると、どうやってもほとんど間違えなくなるから「ナナ、最近面白くねえぞ」って逆に苦情を言われて困ったりもした。でも春に一年が入ってくるとまた何度も間違えて「ほんとに覚えられないんだな」とタクヤ達には呆れられた。




大地さんが後ろから乗り出すようにして、真剣な声になった。

「俺さっきから考えてたんだけど」

やだ、なんか怖い。嫌な話が始まりそう。

「あのさあ、七海ちゃんて周りに見せてるよりも相当苦労してるよね? ちゃんとサークルの奴らとかに説明したほうがよかったんじゃないの? あいつら全然わかってないよ」

私が説明してないからわかってもらえないってことか。そんなことないのに。友達にも時々言われる、これ。話の先が見えて少しうんざりしながら反論した。

「人を覚えるのが苦手って、初対面の人にはいつも言ってますよ、私」

「でもさ、程度っていうか、そういう大変さとかわかってるように見えないっていうか。ネタみたいになってたよね」

わかってないなぁ、笑ってもらえたほうが楽な時だってある。

「笑ってもらえたほうがいいんです。ホントにバカなんだし、諦めてもらえたほうがいいんです」

「いや、だからバカなのとは違うって」

しつっこいな、さっきからこれだけバカエピソード喋らせといて、そんなわけないでしょ。バカなんだからしかたないでしょう。

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