感染学校~死のウイルス~
☆☆☆

それから数時間が経過していた。


音楽室の中まではアラタ先輩の声は聞こえて来ない。


相変わらず嫌になるくらい静かで、自分たちの呼吸音だけが聞こえてきていた。


「ねぇ、田井先生」


空音が横になって目を閉じている田井先生に話しかけた。


「どうしたの?」


目を開け、空音を見る田井先生。


「田井先生はどうして先生になろうと思ったんですか?」


その質問に田井先生は少し驚いたように目を丸くした。


「高校時代の恩師がいたからよ」


田井先生は昔を懐かしむように目を細めた。


「恩師って、どんな人ですか?」


「どんな生徒たちにも分け隔てなく接してくれて、とても親身に相談に乗ってくれる女の先生よ。国語を担当していたけれど、それ以外の科目でもできる限りのことを教えてくれていたわ」


「いい先生だったんですね?」


「えぇ。あたしが進学か就職かで悩んでいた時は、放課後によく相談に乗ってもらっていたのよ」


「っていうことは、卒事業ギリギリまで教師になるかどうか決めていなかったってことですか?」


「そうよ。なにがしたいのか、まだ自分で決める事ができていなかったわ。


だけどね、先生に相談しているうちに、『あぁ、私もこんな人になりたいなぁ』って思えてきて、進学する道を選んだの」


田井先生はそう言い、少し恥ずかしそうに頬を赤くした。
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