派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
 



 本当は、工場の夜景はナイトクルーズで見たかったのだが、突然だったので、予約が取れず、夜景の見える波止場から見た。

 かなり近くに対岸の工場が見える。

 此処の夜景は青みがかった光だった。

「なんか……宇宙か未来に居るみたいですね」
と呟く。

「『今』って時間はないからな。
 今って言ってる間に過ぎ去ってるから。

 今と言ってる間に、常に未来が来てるんじゃないのか?」

「そうですかね。
 私は常に今で、未来には行けてない気がしますよ」

「……安定志向だな」
と言ったあとで、渚は、ちょっと間を置いて、こちらを見、

「ところで、俺と結婚してくれ」
と言ってくる。

「今の会話の流れと合ってませんが……。
 徳田さんに、今日はそう言ってこいと言われましたか?」
と言うと、渚は渋い顔をし、

「徳田は、女は言葉を欲しがる生き物だから、ちゃんと言ってこいと言われたんだ」
と白状した。

「言わなくても伝わってると言ったんだが」
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