派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
「いやあの……なにも伝わってませんからね」

 伝わっていないということが、まず、伝わっていない。

 これだから、言葉って必要なんだな、と痛感する。

「お前もあれか。
 指輪を渡して、結婚してくださいとか言って欲しいのか」

 なんだ、その言い方、と思いながらも、
「いや、それは別にいいんですが」
と言うと、渚は少し考え、何故か一度、車に戻る。

 なにか持って戻ってきたと思ったら、蓮の頭に、いきなりティアラを載せ、
「よし。
 結婚してくれ」
と言ってくる。

 いや……よしっ! じゃないし。

 これしかなかったのはわかるが。

「……なんだか激しく違う気がします」
と言ったのだが、渚は笑う。

「そうかもしれないが、綺麗だぞ」

「ああ、ティアラが?」

 夜景の光に反射して綺麗なのだろうか。

 自分も見てみようと思い、外そうとしたとき、渚が言った。

「いや、お前が」

 だーかーらー。

 どうして、貴方は照れもせずに、そういうことをさらっと言うんですか。
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