派遣社員の秘め事 ~秘めるつもりはないんですが~
そのあと、ちょっと夜景を眺めて、帰ろうとしたのだが。
「あのー、電気、エンプティになってます」
「レッカーを呼ぶか、車を押すか」
と言う渚に、
「そこの道の駅に充電スタンドがあったはずですけど」
と国道の方を指差した。
すぐそこに道の駅の灯りが見える。
二人で車を降り、その灯りを眺めた。
近いと言えば、近い。
「お、押しましょうか」
と蓮は車の後ろに回ってみる。
車の造りがコンパクトなので、押したら軽く動きそうな気がしたのだが、当たり前だが、動かなかった。
渚も一緒に押してみていたが、そんなには動かない。
押しながら、蓮は笑い出す。
「あのー、今日はお姫様扱いしてくれるんじゃなかったんですか?」
なにか頰に当たるなと思ったら、しまいには、雨まで降ってきた。
「いやいやいや。
これはこれで、楽しいだろう? お姫様」
滅多に出来ない経験だ、と渚は言い出す。
「見てみろ、蓮。
雨に工場の光が滲んで綺麗だぞ」
「本当ですね」
と笑いながら、二人で少し車を押してみたが、すぐに挫折して、レッカーを呼んだ。