派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~



「渚さん、先にお風呂使っていいですよ」

「いい。
 お前、入れ」
と渡したタオルで髪を拭きながら、ラグに座る渚が言う。

 あのあと、車を道の駅まで運んでもらって、充電し、家まで送ってもらったのだ。

「……一緒に入るか?」
と笑って言うので、

「嫌ですよ」
と言うと、じゃあ、先に入れ、と言いながら、渚はラグの上で、新聞を読み出した。

 さっさと入って代わってあげようと思い、蓮は急いでシャワーを浴びる。

 あー、あったかい。
 生き返る~。

 寒さで固まっていた全身の血が一気に流れ出す感じがした。

 それにしても、とんだ初デートだったな、と思い出し、笑う。

 雨の中、駆けつけてくれたJAFの人が一瞬、ぎょっとして、こっちを見たあと、視線を逸らすなあ、と思ったら、まだティアラをつけたままだったし。

 髪を洗ってもまだ笑っていると、誰かがドアを叩いてきた。

「あ、まだ入ってますー」
とトイレのように返事をしたあとで、ん? と思う。

 すりガラスの向こうに誰かが居る。
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