派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
「ああ、でも、脇田さんはご存知かもしれないですね。
 社長がなにも調べさせてないわけはないから」
と言うので、

「いや、ああ見えて、渚、その辺にはアバウトで、自分では特に調べてなかったみたいなんだよ」
とつい、社長を渚と呼んで教えてしまう。

「そうなんですか。
 ……脇田さんはご存知なんですか?」
と窺うように見て訊いてきた。

「今は知ってる。
 渚も途中からは知ってたみたいだ。

 っていうか、怪しいとは思ってたんだよ。

 あの人、渚と似たとこあるから」

 あのマンションの家賃、今は貯金があっても、いずれ、払い切れなくなるのではないかと思うが。

 蓮には、いまいち、緊迫感も悲壮感もない。

 本人自覚はないのだろうが。

 いつかなんとかなると鷹揚に構えているかのようなあの感じ。

 渚と同じだ。

 なんとかならない事態を経験したことのない人間。

 成長過程で、金に苦労したことのない人間特有の感覚だ。

 うーん、と二人で腕を組み、渋い顔をする。
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