派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~
「稗田とは企業として相性が悪すぎる」

 そんなことを言い出す祖父に蓮は言った。

「別に合併してくれなんて言ってませんよ。
 私がこの家を出て行けばすむだけの話です。

 ……いてっ」

 いきなり、閉じた扇子で頭をはたかれた。

「お前のような立場の者が、軽々しくそんな言葉を口に出すな」

 申し訳ありません、とそこはさすがに頭を下げた。

 秋津一族の誇りを持て、と子供の頃から躾けられてきたからだ。

「蓮、和博と結婚しろ」

「正気ですか?」
とつい、訊き返してしまう。

「まあ、あいつ自体は毒にも薬にもならんが」

 いや、毒になりますよ、と思ったが、和博もまた、祖父にとっては、自分と同じ可愛い孫だ。

 あまり言っては悪いかと思い、黙っていた。

「心配するな。
 あれにお前の邪魔をするほどの能力はない。

 蓮、お前が後を継げ。
 そして、和博に子種をもらって、子供を産め」
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