グリーン・デイ





 あの日、軽音サークルの新歓バーベキュー・パーティーに、アヤカはやってきた。



 あとで知ったのだが、彼女は軽音サークルのメンバーでもなければ、大学生でもなかった。たまたまバーベキューをしている僕たちを見つけ、周りに気付かれることなく、ふらっと紛れ込んだのだ。



 取り皿を差し出せば肉や野菜が勝手に乗り、紙コップが空になるとビールが注がれる。新入生と勘違いして、話しかけてくる人たちを適当にあしらって、また自ら話しかけることもあった。



 その自然で、裏を返せば異様な光景をアヤカは楽しんでいたのだ。



 春の陽気、昼下がりのバーベキュー・パーティーにすっかり気分の良くなった誰かがアコースティックギターを弾き始めた。アヤカは焼きそばの口直しをするかのように、ギターを弾いている人の隣まで行き、その音色に合わせて歌った。ひな鳥が親鳥に餌を求めるように、透き通った荒々しい歌声だった。



 賛否両論あるかもしれないけれど、僕には良かった。できれば今組んでいるバンドを解散して、彼女の歌声に乗せてギターをかき鳴らしたいとも思った。それくらい衝撃的で、テーマ無き心の叫びが、声でなく、音でなく語り掛けてくるものが彼女の歌声にはあった。



 もちろん、僕もてっきりアヤカは新入生だと思っていた。(もう一度言うが、僕自身、彼女が部外者であったことを知るのはずっと後の話になる。)



 青い長めのトップスを着て、その下からチラリと見えるショートパンツが誘惑的で、黒のショートブーツを履いていた。身長は推定150㎝前後、体重は推定40㎏前後で、華奢な体型。黒い艶のある髪はショートカットで、目は大きく、人の1,5倍は太陽の光を取り入れられそうだった。鼻筋は通っていて、唇こそ貧相で横一線に伸びていたが、僕は一目で彼女は綺麗な部類に入る女性だと思った。



 ただ、タイプではなかった。むしろ、ふくよかな女性がタイプの僕にとっては、アヤカに恋をするということは、コンビニで買ったアイスが夏の暑さによって溶かされ、ただの木の棒になり、それだけのためにお金を払うようなものでしかない。しかしそれが、当たり付きの棒であれば、話は別だ。十分恋愛に発展する可能性はある。



 自分の好みを変えることはできないが、恋愛に発展する過程は、大体が好みとは違う人と出会って、内面を知って、気付かされるものが多いのだ。当たりかどうかは彼女の内面にかかっていた。




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