ポラリスの贈りもの

(別荘の庭にある休憩所)


村田「キラさんは29歳だったよね」
星光「はい。村田さんはおいくつですか?」
村田「いちごでいいわよ。
  私は26歳よ。
  それで、神道社長と東さん、七星さんは今年39歳で同じ年。
  そのあとに浮城さんが38歳、流星さんは37歳って続くの」
星光「へーっ(北斗さんって39歳なんだ。
  10歳も年上なのね……だから本気で相手にされてないのかな)」
田村「それからベテランの鍋島さんが55歳で、
  佐伯さんが38歳だったかな。
  そうそう。カレンさんは35歳だったと思う」
星光「すごいなぁ(笑)皆さんの歳を覚えているなんて。
  本当に私より随分大人だな」
村田「それは私が神道社長の秘書をしているからで仕事だからよ」
星光「うわぁー。いちごさん、秘書だったんですね」
村田「ええ。でもね、田所さんの年齢だけ知らないの」


庭の長椅子に座っていちごさんと入れ立てのコーヒーを飲みながら、
皆の歳のことを話していると、遠くの方で私を呼ぶ声がしてきた。
その聞き覚えのある声はどんどん近付いてくる。
私といちごさんは話を中断して声のするほうを見た。
するとそこに居たのは、
私達に大きく手をふりながら走ってくる夏鈴さんだったのだ。



夏鈴「キラちゃーん!」
星光「えっ。夏鈴さん!?」
夏鈴「キャーッ!キラちゃーん!
  (抱きつく)会いたかったよー!」
星光「私も会いたかったよ。
  どうしてここに?
  あっ、もしかして浮城さん?」
夏鈴「そうそう。それだけじゃなくてさ!
  TVのワイドショーとか雑誌で、
  北斗さんの事を見てそれも心配で来たの!
  もしかしたらニュース見て、
  キラちゃんがショックを受けてるんじゃないかって思って」
星光「えっ。ニュース?
  北斗さんの事って一体……」
村田「キラさん!あの、この方は?」
星光「あっ、すみません。
  彼女は仲嶋夏鈴さんです。
  私の以前勤めてた会社の先輩で、もと同居人です(笑)」
夏鈴「初めまして。私、仲嶋夏鈴と申します。
  キラちゃんがお世話になってます」
村田「初めまして。村田苺と申します。
  よかったら私達と座って話しませんか?コーヒーどうぞ」
夏鈴「はい。ありがとうございます!」
星光「夏鈴さん。私、浮城さんを呼んでこようか?」
夏鈴「あぁ。彼は後でいいのいいの。
  私はキラちゃんに会いたかったの!」
星光「う、うん(笑)ありがとう」


私たちが話していると、撮影がひと段落したのか、
海岸の方で皆の話す声が聞こえてきて賑やかしくなってきた。
夏鈴さんはコーヒーを飲みながら海を眺めていたけれど、
話の途中で急に黙ってしまった。
その表情は青ざめ、何かに怯えるように口に当てた両手を震わせている。
そして、その視線はじっと一点を見つめていた。
その目にはいっぱいの涙を浮かべている。



星光「夏鈴さん……どうしたの?」
村田「顔色が悪いわ。
  体調が悪いなら潮風は避けた方がいいわ。
  リビングに移動しましょうか?」
夏鈴「……」
星光「あっ。もしかして、元彼のこと思い出しちゃったの?
  夏鈴さん、場所変えましょうか」
夏鈴「……」


さっきまで明るい表情を見せていた夏鈴さんの突然の変容に、
私は勿論いちごさんも心配している。
無言のままボロボロと大粒の涙を流す夏鈴さんに、
何をしてあげればいいかのか、
痛みにも似たむず痒さを感じ、
彼女の震える手を握って見守ることしかできない。
しかし、夏鈴さんが流す涙の訳を知ったとき、
同時に私の運命までも大きく変えるなんて、
この時は思いもしなかったのだった。

(続く)


この物語はフィクションです。
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