ポラリスの贈りもの
49、陽立の告白

火のついた爆弾の導線のような火花が、
バチバチと散っているのを間近に見て、
一触即発の危機が迫っていることを痛感した。
そしてカレンさんと根岸さんの壮絶バトルはまだ続く。


カレン「根岸くんが出ていくなら、
   この騒ぎの張本人にも出ていってもらわなくちゃね。
   あの子が来て碌なことがないし、
   カズだって仕事に身が入ってない。
   貴方が今すぐ出ていくって言うなら、
   濱生星光を一緒に連れってもらえない?」
根岸 「は!?彼女はまったく関係ないだろ!
   どうして星光さんがやったと言い切るんだ!」
カレン「じゃあ、聞くけど。
   貴方はあの子がやってないとどうして言い切れるの!?」  
根岸 「俺があんたに聞いてるんだ!」
カレン「濱生星光のせいで私の仕事はめちゃくちゃ!
   残りの撮影だって無事に終わるかどうか。
   彼女のせいで、うちも昴然社みたいになるんじゃないの!?」
根岸 「あんたがそんなこと言えるのか。
   これまで自分が何をしてきたか忘れたのか!」
カレン「それを言うなら貴方も同罪よ!
   根岸くん。私に何かあったら貴方も道連れにするわよ」   
根岸 「ふっ。事が思うようにいかなくなったら脅しをかけるか。
   あんたって本物の魔女だよな」
カレン「私のしようとすることを邪魔するなら遠慮なんかしないわ。
   魔女にも地獄の番人にだってなるわよ!」
風馬 「怖い女だな。言ってることむちゃくちゃだ!
   さっきから黙って聞いてれば、
   全部星光のせいにして、好き勝手なこと言いやがって!」


その時、騒ぎに気がついた北斗さん、
東さん、流星さんも二階から下りてきた。
北斗さんたちはびっくりしたような表情を浮かべ、
現状を把握しようと見ている。
根岸さんはカレンさんの言葉に動じることはなく、
堂々とした様子で向き合っている。
きっと夏鈴さんの存在が彼の心を強くし、
立ち向かう揺るぎない決意が生まれたのだ。


根岸 「これ以上、私的感情を持ち込むのはやめろ。
   このまま続けるなら、それこそあんたが撮影できなくなるぞ」
カレン「いえ。
   あの子が今すぐ私の目の前から消えてくれたら済む問題よ!」
七星 「カレン!」
星光 「もうやめてください!
   これ以上私のことで言い合わないでください。
   カレンさんの言う通り、
   私がここを辞めて出ていけば済むことです」
村田 「キラちゃん、何を言いだすの!?」
星光 「苺さん、もうこんな光景を見るの辛いんです。
   私のことで皆さんが争う姿を見るのが、
   辛すぎるんです……」
根岸 「星光さんは黙ってろ。
   これは俺とカレンさんの問題だ。
   過去5年分のことも含めてな」
カレン「違うわ。これは私と濱生星光との問題よ!」
東  「お前ら!いい加減に言い合うのはやめろ!」

さすがの東さんも見るに見兼ね、
カレンさんと根岸さんに声をかけた。
もう収集がつかないほど各々の感情が飛び交い、
苺さんと田所くんはおろおろするばかり。
しかしある人物の言動で、場の空気は一転する。
それはここに居る誰もがまったく予想もしなかった事態で、
それまで罵倒していたカレンさんまでも言葉を失うくらい。


浮城 「カレン。もうやめないか」
カレン「はぁ!?陽立には関係ないわ」


根岸さんの隣でずっとやりとりを聞いていた浮城さんは、
黙ったまま階段の中段から下りてきた。
そしてカレンさんを見つめながら、
ゆっくり近づくと彼女をぎゅっと抱きしめ、
とっても優しい穏やかな声で、
何もかも悟っているように話しかけたのだ。
抱きしめられたカレンさんはもちろんのこと、
根岸さん、私、その場にいた全員が茫然とその光景を傍観する。


浮城 「根岸はカメラを壊してない。
   もちろん、星光ちゃんもだ。
   それはお前がいちばん分かってるだろ?カレン」
カレン「な、何も知らないくせに!
   陽立まで何を言い出すの!?」
浮城 「見たんだ、お前のこと。
   聞いたんだよ。駐車場で……」
カレン「えっ!」
浮城 「俺の言ってる意味、分かるよな」
カレン「ひ、陽立!放してよっ!」
浮城 「カレン、いったいどうした?
   今のお前は俺が知ってるカレンとはまったく別人だぞ。
   何がお前をそうさせてるんだ」
カレン「何……」
浮城 「お前は気が強くてプライドが高くて、
   俺のことをいつも冷たくあしらってたけど、
   それでも仲間思いで、
   肝心な時はいつも俺たちを助けてくれていたよな。
   以前のお前は愛情も友情も、
   両手でしっかり握っていたのに、
   いつどこに置いてきたんだ」
カレン「……」
浮城 「お前。今すごく寂しいだろ?すごく孤独だろ」
カレン「陽立、放して」
浮城 「いや、放さない。 
   今、お前の心の中に抱えてるもの全部降ろして、
   また俺たちのところへ戻ってこいよ」
カレン「訳わかんない。放して!」
浮城 「放さない!俺は、以前のカレンが大好きだ。
   だから、いつものカレンに戻るまで俺はお前の傍に居る」
カレン「もう。放してったら……」
浮城 「ぜったいに放さない」
カレン「何故!?」
浮城 「本気で惚れてるからだ」
カレン「そんなの嘘よ。
   私のことなんか誰も好きなわけ……」
浮城 「俺は大好きだよ。
   お前がカズを好きで俺を嫌ってても。
   お前はひとりじゃないんだ。
   お前の傍には俺が居る」
カレン「陽立。もしかして、泣いてるの!?」
浮城 「……」
カレン「何故……何故、陽立が泣くのよ」
浮城 「……」
カレン「陽立。泣きたいのは、私なのにぃ……」
浮城 「カレン」



浮城さんの突然の告白と、彼の頬を伝う涙に驚き、
両目に涙を湛え貰い泣きするカレンさん。
そんな脆い彼女を優しく見つめながら、
駐車場での出来事を思い出す。


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