約束のキミを。

親指姫とうさぎさん

あの日から2日。

千奈ちゃんが退院する日がやってきた。


「みくねぇちゃん!」

千奈ちゃんは、いつもみたいに元気な笑顔で私を呼ぶ。

「みくねぇちゃんにこれあげる!」

千奈ちゃんは、千奈ちゃんの1番のお気に入りのうさぎのぬいぐるみをさし出した。

「これ、お気に入りでしょ?いいの?」

「いいの。みくねぇちゃんが、持ってて!みくねぇちゃん寂しくなったら、ちなの事をこれ見て思い出してね。」


また、目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになる。


ダメだ。今日は笑顔で送り出さなきゃ。


「ありがとう。千奈ちゃん。」

私が、微笑むと、千奈ちゃんも嬉しそうに笑う。


「あのね私も、渡したいものがあるの。」


そっと、1冊の本をさし出す。

「これはね、『親指姫』っていう本。小さな小さな可愛い女の子がね、一人っきりでたくさんの辛くて大変なことが起こるの、でも女の子はそれにも負けず、傷ついたつばめの看病をしてあげる優しい女の子なの。
そして、最後はつばめが元気になって、たくさんのお花が咲いた、王子様のいるところに連れて行ってくれる。

なんだか、千奈ちゃんに似てるなって、思ったの小さな、強くて優しい女の子。

この本を千奈ちゃんにプレゼントします。まだ、読めないひらがなあるかもしれないけど、いつか自分で読めるから大事に持っててくれると嬉しいな。」


千奈ちゃんは、目をキラキラさせ本を宝物のように抱きしめると、ニコニコと笑った。






「レンにぃちゃん!みくねぇちゃんのそばにいてあげてね。ちな、レンにぃちゃんの事忘れない!大好きだよ!」

千奈ちゃんは、レンに抱きつく。


「もちろん。千奈と遊べて楽しかったよ!いつかまた、遊ぼうな!千奈。」

と千奈ちゃんに笑った。


「あのね、まさにぃちゃんは本当は、優しいのちな知ってるんだよ!だからちなね、まさにぃちゃん大好き!大好き!大好き!」

千奈ちゃんの、この「大好き」にはきっと伝えきれない気持ちがたくさん詰まってる気がした。

勝くんは、何も言わずガシガシと千奈ちゃんはの頭を撫でた。
少しだけ寂しそうな顔で。

撫でられている、千奈ちゃんはすごく嬉しそうに勝くんに笑った。

「ありがとう。まさにぃちゃん。まさにいちゃんありがとう!」



そして、病室を見回して、千奈ちゃんは満足気に病室を出て行った。








「千奈ちゃん!退院おめでとう!」




最後の最後に、言えた。言い出せなかったこの言葉。千奈ちゃんの背中に向かって、叫んだ。


千奈ちゃんは、振り返った。


千奈ちゃんは、2つに結んだ髪を揺らし、少しあかいぽっぺたで最高に眩しいくらいの笑顔で、切なくて愛しくて寂しくて伝えきれない、表し切れない気持ちがこみ上げる。

「みくねぇちゃん!だぁーーい好き!!」





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