地味男の豹変〜隠された甘いマスク〜
彼はマウスを動かし、私の背後からサンプルの数を打ち込んでいった。
顔も近いし、抱きしめられてるみたいな感じが、私をドキドキさせる。
「ね、ねぇ……口で言ってくれたら私が打ち込むけど」
「ん?口で言うより手を動かした方が早いだろ?それとも……ドキドキしてるとか?」
「ば、バカじゃないの!何でドキドキなんて……」
「相変わらずわかりやすいな玲美は。まぁわざとしたんだけどな?さっきの仕返し。それに半分は俺が玲美に触れたかったから」
そう言って打ち込みが終ると私から離れた。
仕返しと言ったと思ったら、触れたかったとか。
私を殺すきだろうか?
好きじゃないのにドキドキして、意地悪されたら剥きになっちゃうし、本当に年下の癖に生意気。
結局、その後はメーカーは来なくて商談は終わった。
オフィスに戻った私は、営業とアシスタント全員分の商談のデータを印刷した。
印刷が終るとホッチキスで止めて、サンプル依頼のファックスもメーカーさんに送った。
少し遅くなったけどやっと帰れる。
そう思ってると部長がオフィスに戻ってきた。
「二人とも今日はお疲れさん。明日は休みだしこの一週間頑張ってくれたから今日は二人とも帰っていいぞ」
「ありがとうございます、では日報書いたら帰りますね」
二人で部長にそう言うと、パソコンに日報を打ち込んだ。
「お疲れ様です」
パソコンの電源を落とすとそう言ってオフィスを出た。
あー今日は疲れたな……。
そう思いながら駐車場に向かっていると、笹山くんが後ろから走ってきた。
「少しくらい気を利かせて待ってくれてもいいだろ?」
「二人で帰る約束なんてしてないでしょ?」
「冷たいな玲美は。後、明日は十時に家に迎えに行くから用意して待ってろよ?じゃあお疲れ」
彼は言う事だけ言って車に乗った。
忘れてなかったのね……。
私はため息をついて自分の車に乗った。