全力で恋したい!
stage 01

騒がしい校内。

女の子の話声や、
男の子の笑い声が飛び交う。

その騒がしさとは
別の世界のような静けさの広がる
カウンセリングルーム、
通称"心部屋"。

あたしはスクールカウンセラーとして
この学校に通っている。

新田 心、30歳独身。

「ねー、心先生聞いてる?」
「聞いてるよ?」

付き合ってる彼氏と喧嘩した。
そう愚痴をこぼしにくる生徒や、
クラスに馴染めない生徒が息抜きに
この部屋を訪れる。

新任の先生が涙を流しながら
駆け込んで来ることもあったかな。

「マコトのやつ、絶対浮気してる!」
「それでも好きなんでしょ?」
「そうなんだよ…、だから腹立たしいよね、余計に」
「そうね」
「心先生、彼氏は?」
「彼氏、は……」

今はいない。
いや、いらない。

あたしの気持ちを察した様に
チャイムが校内に鳴り響く。

女子生徒はどこかスッキリした顔をして
教室に戻っていった。



ひと息つこうとコーヒーを入れて、
お気に入りの音楽をかける。
窓から心地よい風が……

コーヒーの香りと共に、
鼻につく煙草のにおい。


あたしはこのにおいが嫌いだ。


「松田先生!!ここで煙草を吸うのはやめてくださいって、何度言ったら!!」
「えー。だって今ここでしか気兼ねなく吸えないし」
「ここも禁煙です」
「まぁ、そう固いこと言うなよ!」
「ダメです。教頭に怒られるのあたしなんですから」
「怒った心ちゃんも素敵だねー」
「茶化さないでください。ってか、松田先生、いらっしゃるならあの子の悩みを聞いてあげたら良かったのに」
「んー?俺、高校生嫌いなんだよねー」

この人は何を言ってるのだろうか…
人をからかうような笑みを浮かべて、
幸せそうに窓際で煙草を吸うのは
松田 壱耶先生。28歳、独身。

1度、どうしてもって言われて
喫煙を許したら、その日から
ほぼ毎日、この部屋に煙草を吸いに来る。

「とにかく、今後この部屋はどんな理由があろうとも禁煙です。守っていただけないのなら、」

机に向かってコーヒーを飲みながら話してたあたしに
松田先生はいきなり抱きついてきた。

驚いてコーヒーをこぼしたあたしの耳元で少し笑いながら、

「守らなかったら?どうするの?」

身動きも取れず、固まるあたしから身体を離し、
頭を軽く叩くと、手を振りながら
部屋を出ていった。
< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop