全力で恋したい!

首元から松田先生の香水の香り。

男の人に抱きしめられたのは、
何年ぶりだろう。


あたしにも、昔は恋人がいた。
最悪な別れ方をして、
あたしは恋をする事を諦めた。

誰かを好きになるのも、
誰かに好きになってもらうのも、
もう、疲れた。

もしあたしが、
人並外れた容姿の持ち主で
大人の色気があって
男の人がほっとかない様な人間なら
恋を諦めたりなんかしなかったのかな。

残念ながらあたしは、
平均よりもふくよかで、メガネ。
まぁ、どちらかと言わずとも
モテた試しがない。


松田先生の残した吸殻を片付けながら、
さっきの事を想い出して
心が少し音を立てた。

忘れていた、はずの。


でもあたしは、
無理矢理勘違いだと決めつけて
蓋をした。

好きにならなければ、
傷つく事ないから。
もう、あんな想いはたくさん。


放課後、利用した生徒の報告をする為
書類を作成していた時、
校内専用の電話が鳴った。

珍しい事もあるなぁ、と
電話を取ると、相手は松田先生だった。

内容は、とにかく来てほしい。
それだけ言って電話は切れた。

いったいどこに行けばいいの?
なぜあたしなの?

そんな事を想いながら
書きかけの書類をそのままに
あたしは部屋を出た。

外出中の札をかけて、
とにかく松田先生を探した。
職員室にいる先生方や、
学校に残る生徒に居場所を聞き
やっとの想いで見つけ出した松田先生は
校舎裏の木陰で眠っていた。

子犬を抱えて。
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