私はくるくる落下中。
くろかみ

1





side:R.I



気持ちの悪いまどろみから、意識が浮上していくのを感じた。

周囲の音や、光、匂い…五感のあらゆる機能が再起動していく。

浅い眠りの中、夢など見なかった。

けれど自分はしっかりと安物の革張りのソファーに制服のまま横たわって眠っていたようだ。

頭はガンガンとし、体はだるい。

昨夜、知り合いが経営するイケナイクラブでどんちゃん騒ぎをして、酒を大量に煽ったことによる二日酔いだろう。

体を起こす気にもなれない。

何もかもがだるい。

今が何日で、何時なのかそれすらも分からない。

程好い薄暗さを演出するために設計されているクラブは、

今が朝なのか夜なのかさえ感じさせてはくれない。

何をする気にもなれず、ただぼーっと天井を見上げる。

頭痛を軽減するべく、息を深く吸ってみても、

周囲は、タバコと酒と、女の匂いで充満している。

息さえも吸わせてはくれない。

何もかもが汚く、真黒だ。

「龍雅~、起きたのぉ?」

「…ん」

ふと視界が翳ったと思ったら、バサバサとした茶髪が俺の額に落ちてきた。

ついでに、不細工な女が至近距離で俺を見下ろしている。

タバコ臭い。

「んふ、ちゅーしよ?」

「…勝手にしろ」

タバコときつい香水が混ざった最悪の香りを纏って、女が顔を近づけてくる。

俺は現実から目を反らすようにして、そっと目をつむる。

そうすれば、ひと時の幻想を見れる。

ブスとのキスの先に、あいつとの幻想を見ることが出来る。

ちゅ、と唇同士が重なる瞬間に…俺の瞼の裏には艶やかな黒髪が翻った。









< 13 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop