私はくるくる落下中。
くろかみ
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side:R.I
気持ちの悪いまどろみから、意識が浮上していくのを感じた。
周囲の音や、光、匂い…五感のあらゆる機能が再起動していく。
浅い眠りの中、夢など見なかった。
けれど自分はしっかりと安物の革張りのソファーに制服のまま横たわって眠っていたようだ。
頭はガンガンとし、体はだるい。
昨夜、知り合いが経営するイケナイクラブでどんちゃん騒ぎをして、酒を大量に煽ったことによる二日酔いだろう。
体を起こす気にもなれない。
何もかもがだるい。
今が何日で、何時なのかそれすらも分からない。
程好い薄暗さを演出するために設計されているクラブは、
今が朝なのか夜なのかさえ感じさせてはくれない。
何をする気にもなれず、ただぼーっと天井を見上げる。
頭痛を軽減するべく、息を深く吸ってみても、
周囲は、タバコと酒と、女の匂いで充満している。
息さえも吸わせてはくれない。
何もかもが汚く、真黒だ。
「龍雅~、起きたのぉ?」
「…ん」
ふと視界が翳ったと思ったら、バサバサとした茶髪が俺の額に落ちてきた。
ついでに、不細工な女が至近距離で俺を見下ろしている。
タバコ臭い。
「んふ、ちゅーしよ?」
「…勝手にしろ」
タバコときつい香水が混ざった最悪の香りを纏って、女が顔を近づけてくる。
俺は現実から目を反らすようにして、そっと目をつむる。
そうすれば、ひと時の幻想を見れる。
ブスとのキスの先に、あいつとの幻想を見ることが出来る。
ちゅ、と唇同士が重なる瞬間に…俺の瞼の裏には艶やかな黒髪が翻った。
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