また、部屋に誰かがいた
翌日、9時過ぎに目を覚ました栗原はコーヒーを入れ、そのカップを手にリビングのテレビを点けた。

テレビのワイドショーで早口に話すリポーターの声が耳に入る。

「昨夜、発生しました殺人事件の現場は、このアパートの2階です」

ふとテレビに目をやった栗原は驚いた。そのアパートとは、昨夜の若い男の乗客がタクシーを降りたところだったからだ。

「昨夜の0時くらいに、この部屋に住む女子大生を鋭い刃物のようなものでめった刺しにした犯人の行方を警察は懸命に追っています。犯人と思われる人物は昨夜、このアパートの前でタクシーから降りるところを付近の住民が目撃しております。」

(昨夜の男が…人殺し…)驚きで固まる栗原の耳にニュースは続く

「また、近くのディスカウントストアで凶器と思われる刃物を購入する犯人らしき者の姿が防犯カメラに捉えられていました。」

(あのとき…俺を待たせて、凶器を買っていたのか…)

テレビに映る防犯カメラ映像の犯人は服装や、その雰囲気は昨夜、彼が乗せた若い男だ。動揺した表情で、目を開きテレビを見入る栗原の背中に冷たい汗が流れる。

また、近くのディスカウントストアで凶器と思われる刃物を購入する犯人らしき者の姿が防犯カメラに捉えられていました。」

(昨夜の男が…人殺し…)

テレビに映る防犯カメラ映像の犯人は服装や、その雰囲気から昨夜、彼が乗せた若い男だ。
固まった表情で、目を開きテレビを見入る栗原の背中に冷たい汗が流れる。

(そうだ。警察に電話しなきゃ…。今頃きっと目撃されたタクシーを探しているだろうし…)

そのとき彼は、男がタクシーの車内に置き忘れたスマホのことを思い出した。

(そういえば…、以前に誰かから聞いたことがある…。スマートフォンって…)

そのとき彼の家の玄関で呼び鈴が鳴った。

「はい」玄関でドア越しに栗原が返事をすると

「西警察署のものです。ちょっとお聞きしたいことがありまして…」

ドアスコープからは私服警官らしいスーツ姿の男が一人立っているのが見える。

しかし栗原は

(以前に職場で誰かから聞いたことがある。スマホの位置情報を取得する方法があるって…それに…)

栗原の頭の中はパニックになっていた。

(それに…通常、殺人事件の捜査員は一人で尋ねて来たりしないはず…)

やがて…荒々しくドアノブが回される。

ガチャ!ガチャ!ガチャ!ガチャ!…

それが止むと、彼の家の周りを探るように歩く足音がする。

慌てて各窓の鍵を確認しながら、彼は震える手で110番をかける。

相変わらず、すぐ壁の向こうから「あいつ」の足音が聞こえる。

じゃり…じゃり…じゃり…じゃり…じゃり…

その影はリビングの窓の外を通り、その先はキッチンの窓。

手が震えてなかなか電話ができない。焦る栗原の耳にどこかで窓ガラスが割れる音がした。

(だめだ!早くここから逃げなきゃ!)

彼はリビングを抜けて再び廊下に出ようと考えた。


しかし…








「部屋に誰かがいた」














< 113 / 147 >

この作品をシェア

pagetop