また、部屋に誰かがいた
部屋に君がいる
社員通用門を出て、すっかり暗くなった駅前の裏通りを抜ける。
しかし、もう重いコートは必要なくなった。
スーツの上着だけで、むしろ速足で歩けば、少し汗ばむくらいだ。
しばらく歩くと駅から続く、やや広い通りに差し掛かったが、そこを歩く人はほとんどいなかった。

前を通りかかったスーパーも入口は既に閉ざされていて、わずかな灯りだけが外に漏れている。

そこを過ぎ、さらに歩道を歩く僕の横を時折、車のヘッドライトが追い越して行った。
やがて市内を流れる千代川の大橋の手前で道を右に折れると目の前に神社が見える。辺りは住宅街となり、一層、外を出歩いているものなど全くなく。静かな夜空にアスファルトを叩く僕の靴音だけが響いていた。

あと少し歩けば、僕が住んで4年目となるアパートだ。山陰の地方都市にある支店への転勤を命じられ、初めてこの町に来た頃はこの「のどかすぎる土地」に驚いたが、住めば都。今では此処がすっかり気に入っている。
今の会社に入社してから3~4年周期で転勤があり、引っ越しを重ねている。今回でもう3回目。
エントランスを抜け2階にある部屋の鍵を開けて、なかに入ると僕は「ふう」と一息ついて帰宅途中に買ったコンビニ弁当を玄関の床に置いた。
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