また、部屋に誰かがいた
夜中、ふと部屋のなかに人の気配を感じて、真矢はうっすらと目を覚ました。

「正彦が帰って来たんだ。」

そう思ったが、彼と会話したりすることを億劫だと感じた真矢は、そのまま寝たふりをすることにした。

彼はしばらく部屋のなかをウロウロしたり、キッチンのほうへ行ったりした後に真矢が眠るベッドに近づいて来た。
相変わらず真矢は、そんな正彦に背中を向けて寝たふりを続けていた。

やがて、
トン…トン…トン…
と真矢の肩を手で叩いてきた。

(いつもなら、黙って寝てしまうのに、どうしたんだろ?)

そう思った真矢だったが、それで起きて、彼に体を求められても、もう、そんな気持はないし、嫌だった。
そこで彼女は寝たふりを続けた。

それなのに…また

トン…トン…トン…
と真矢の肩を叩いてくる

(しつこいなぁ…)

彼女はひたすら寝たふりを続け、そのまま本当に眠りに落ちてしまった。




翌朝、目を覚ました真矢が隣を見ると正彦はいなかった。

(あれから、また遊びにでも行っちゃったのかな?)

そう考え、少しだけ嫉妬の感情も沸き上がってきたが、

「これで良かったんだ。早く彼に、ちゃんと別れ話をしなきゃ…」

真矢は、そう思った。

ベッドから立ち上がり洗面所に向かおうとした彼女はテーブルの上に包丁が置かれているのを見つけた。
いつもは棚の扉に付いてる収納ポケットにしまってあるはずなのに…

(正彦が何か夜食でも作ろうとしたのかな…)

包丁を片付けて、洗面所に真矢が行こうとしたとき、
入り口のドアの鍵を開ける音がした。
そして、

「ただいま。ごめん。真矢」
そう言いながら正彦が帰ってきた。

「いいよ。それより包丁出しっぱなしだったよ。何を作ろうとしたの?」

「は?なんのこと?」

「夜中に帰って来たときに何か夜食でも作ろうとしたんじゃないの?」

「意味わかんねー。だって俺、いま帰ってきたとこだし…
仲間と飲んでたら終電逃しちゃったんで、そのまま朝まで居酒屋にいたんだ」

「………!」


正彦が昨夜、どこにいたのかは分からない。
どうせ、このだらしない男はどこか別の女のところに泊まってきたのかもしれない。

そんなことより…




昨夜、寝ているアタシの肩を叩いたのは…?

そして、あのとき
起きて振り返っていたら…


真矢は黙ったまま立ちつくしていた。







「部屋に誰かがいた」



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