また、部屋に誰かがいた
部屋に誰かがいた【トン・・・トン・・・トン・・・】
月末の繁忙で、3日連続の残業続きだった。

学生の頃から住んでいる1LKのアパートの最寄り駅の改札を抜けて、コンビニで弁当を買ったときにレジ脇の時計を見たら、
デジタルは22:45。

吉田真矢は金融機関に勤める24歳。
大学を卒業後に就職した。
彼女はそこから10分ほど歩いて部屋に帰る。

外から見る彼女の部屋の窓は暗く、

「正彦も帰ってないんだ」と思った。

正彦とは付き合い始めて一年くらいになるが、俳優志望だったり、芸人志望だったり、最近、はバンド活動も始めたとか言っていた。
要するに夢ばかり見てるだけ。
出会った頃はなんとなくカッコよく見えて、そんな彼の「夢を支える彼女」といった立場に、まんざらでもない満足感もあった。
しかし、いまでは彼女のアパートに住み着き、生活費や小遣いを真矢にたかる「ヒモ」のような存在になっていた。
部屋に入り、コンビニの袋とカバンを置いて、手早く化粧を落とした真矢はシャワーを浴びるためバスルームに向かった。

「正彦とは別れなきゃいけない」

結婚とか将来も考えられない男とズルズル付き合っていっても意味がない。
それに怠惰にしか見えない正彦に対して彼女の恋愛感情も最近では、すっかり冷めてしまった。

でも、正彦に別れ話を持ち出そうと何度も試みたが、どうしても言い出せなかった。

真矢には、なんとなく一人になってしまうことに抵抗があったし、何より女の一人暮らしは何かと物騒だ。
ちょうど彼女が住む街の周辺で一人暮らしの女性の部屋に忍び込む「連続暴行殺人事件」が起きたばかりだ。
3人も被害者が出てるのに、その犯人はまだ捕まっていない。


「あーあ・・・」

溜め息をつきながらバスルームを出た真矢はコンビニ弁当での夕食を食べて、ベッドに入った。

正彦はまだ帰って来ない。

鍵は持ってるんだし、どうせ何時に帰って来るか分からないんだから待っててもしょうかない。

「とりあえず今日は寝てしまおう。疲れちゃった…。正彦とのことは明日また考えよう。」

ゆっくりと瞼を閉じた真矢は、そのまま眠ってしまった。


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