また、部屋に誰かがいた
部屋に誰かがいた【廃墟に棲むもの】

心霊ロケの夜

「恐怖の心霊スペシャル!」
深夜0時を回ったころだというのに、彼らはそこにいた。
周囲から霊感が強いとの評判がある20歳代の女性アイドルタレント「牧田あかね」と、やはり霊感があるとして多くの心霊番組に出演している30歳代の男性お笑い芸人「モモンガ佐藤」。そして有名な女性霊能力者「銀閣寺聖子」(年齢不詳)と番組制作スタッフ10名である。
これから本番を迎える夏に放送する予定で、彼らは「心霊スポット潜入」というオカルト番組制作のため、北関東にある、とある廃ホテルの前に来ていた。
かってリゾート向けの温泉旅館風ホテルだったここでは、静かな山間で毎晩のように団体客の宴会の声が聞こえ、経営も順調であったが、5年前に20名以上の死者を出した火災によって閉館に追い込まれ、経営者は現在行方不明との噂があるホテルだった。
いまや廃墟と化したその廃ホテルは当然のように心霊スポットととして知られるようになり、「きもだめし」に訪れた多くの者から「出た!」との報告があった場所だ。

木立の黒い影に囲まれ、雑草が伸び放題となっている敷地に不気味な姿で佇む「廃ホテル」
一同はゆっくりとその入口付近に場所を移した。
わずか数百メートルの移動中も若い女性タレントは
「きゃあ!」「怖い!」「もう帰りたい!」と叫び、芸人の佐藤も、いつものおどけた感じは全くなく、青ざめた顔で同行していた。
「やはり、いますね…おびただしい数の霊気を感じます」
そんな霊能力者銀閣寺聖子の言葉に再び、あかねは
「やめてください!そんな話!」と叫び声をあげたが、それにはお構いなしで聖子は続けた。
「無念の死を遂げたものは地縛霊として、亡くなった場所にとどまります。ここにはそんな霊の気配がたくさん感じられます。」

その聖子の言葉どおり、この廃ホテルの2階にある、かって宴会場であった部屋に彼はいた。
会社の慰安旅行でここを訪れていた彼は、ちょうど宴会の最中に発生したホテル火災によって亡くなってしまったのだ。
玉木春夫、亡くなった当時は47歳で会社での役職は営業課課長。
中年太りでポッコリしたお腹から、「たまき」ならぬ「たぬきさん」と親しみを込めたあだ名をつけられ、部下や取引先など多くの者から慕われていた。
関西で健康食品を販売する会社に勤めていた彼は勤続25年目にして、そのバイタリティ溢れる勤務態度で課長に昇格したばかりで、まさに「これから」という時期に彼は不幸な事故にみまわれたのだ。
「また、誰か来たみたいやな…」
窓から建物に近づいてくる番組制作クルーを見て、彼は忌々しそうに、そう呟いた。



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