一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 私はクイとあごを引き上げ、背の高い宗一郎を睨み上げて目を細めた。

「本当にバカじゃないの? 綾乃の気持ちなんか知ったこっちゃないわよ。気持ちが落ち着く? そんなの自己満足でしょ? 私には何一つ関わりないことだし、私の気持ちが落ち着いたとでも思われているなら大迷惑だわ」

「でも……薫だってもう彼氏がいるじゃないか」

「はあ? 彼氏? いるわけない。もう私は一人で生きていくことを決めているんだから」

「あの日一緒にいたのは彼氏だろう? そんな誤魔化さなくても」

 宗一郎が誰のことを言っているのか最初はわからなかったが、すぐに成瀬のことだと思い至る。

 以前、二人と会ったあの時、ちゃんと成瀬が後輩だと言ったはずだったのに、彼氏ということに変換されてしまったらしい。

「あれは会社の後輩。たまたま食事をしただけだって言わなかった? もう付き合うとか、そういうのはこりごりなの。二度と誰かと付き合うことなんかない」

 言い切った私へと宗一郎は手を伸ばして腕をつかんだ。

「ちょっ!? 触らないで!」

「薫、ごめん。そんなに僕のことが忘れられないでいたなんて……。薫の一途さに気がつけなくてごめん。社交的で物怖じしない君なら、きっとすぐに新しい彼氏を見つけて、好きなように生きていけると思ってしまったんだ。それなのに……」

 グッと力をこめて腕を引かれたから、宗一郎の腕の中にとらわれてしまった。
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