一寸の喪女にも五分の愛嬌を
 その笑顔がどれほど相手に影響を及ぼすかわかっていながら笑っているはずだ。

 イヤになるほど惹きつけられる。

 だからこそ、私は転職するべきだ。

 確かな答えを手にした。


「質問は以上? それなら仕事に戻ってくださいね」

「はい、ありがとうございます!」

 快活に礼を告げる成瀬の背中が嬉しそうに見えたのは、自分の希望的観測だろう。

 今夜、成瀬にはちゃんと話しておこう。
 そして私の部屋に来るのは、今日を最後にしてもらおう。

 そう心に決めた私は、午後からもただひたすら仕事に打ち込んだ。

 しかし終業時間間際、調子の悪さが戻ってきてしまった。

「薬が切れてきたんだ」

 朝と夕方と二回の服用でいい薬だが、少し早めに飲んでおこうと私は席を立ち、自販機へ向かった。

 水を購入し薬を流し込む。

「何か食べてからの方がよかったかな」

 飲んでから今更だったが、どうも頭がぼうっとしていて考えが及ばなかったのだ。

 まあ仕方ないかと、くるりと体を反転させた私は息を呑む。

 少し離れた場所で早川さんが壁にもたれながらこちらを見つめていたのだ。
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