ノラネコだって、夢くらいみる
「あいつに襲われたくないなら、あんまり煽るなよ」

「別に、煽ってなんて……」

「わかっただろ?押し倒されたら最後って」

「………!」

 もしかしてそれを教えるために、こんなことしてきたの?だとしたら、さすがに今のは……

「やりすぎっ……」

 蚊の鳴くような声で、そうつぶやく。

 私は急いでヘアゴムで髪をまとめ、かぶってきた帽子の中へとしまいこみ、深くかぶると、黒淵で大きなフレームのダテ眼鏡をかけ、ダウンを羽織る。

 少年っぽい私の、できあがり。

「ドーナツありがとう。帰って家族で一緒に食べる」

 2箱あったうちの1箱をいただいて帰る。

「帰るのか?」

「うん」

「気をつけてな」


 **


 駅前のショーウインドーにうつる自分を見て、ため息をつく。いちるの家に行く時はボーイッシュにして行くのが私の中の鉄則にしても………

「男みたい」

 いつまでも膨らむ気配のないこの胸も、150cmに満たない小学生と変わらないくらいの身長も、ツンケンとした態度ばかりとるこの性格も、目つきの悪さも___自覚済みだってば。

___〝お前に欲情するほど飢えてねーよ〟

 そんなこと、言われなくてもわかっている。あなたにとって私がそういう〝対象〟でないことくらい。

___〝俺が買っちゃ悪いか?〟

 悪い。突然らしくないこと、しないでよ。

 
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