ノラネコだって、夢くらいみる
「間一髪ってとこか?」

「………キスされた」

 って、こんなこと逢阪に愚痴ってどうするんだろう。

「私のこと簡単になびかないって言ってきたくせに、自分には心を開くって決めてかかってきた」

 けど、止まらない。

「なびかないよな、鈴は」

「当たり前よ」

「俺一筋だもんな?」

 ドクン、と心臓が波打った。

 さっき襲われそうになった時のそれとはまた違う感覚。

 いつだってそうだ。逢阪の側にいれば、こうして胸がざわつく。

 それは心地いいなんてものじゃない。よくわからない不安が押し寄せてきた。今すぐ、逃げ出したい。

「そこは黒猫らしく〝バカなの?〟って威勢よく言ってくれなきゃ」

 そう言って、逢阪が苦笑いする。

 ……どうしてそんな、困った顔するの?

「いちる、迎えに行こうか」

「え?」

「今夜帰ってくるらしい」

 半年前、突然いちるは日本を発った。海外からの仕事を受けていたから。それも、1日2日で終わる仕事ではないらしく。

「そうなんだ!」

「そろそろ空港に着くんじゃないかな」

「………」

「それとも」

「………?」

「このまま、俺と2人でいたいか?」
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