ノラネコだって、夢くらいみる
 顔を伏せ、来るな来るなと念じてみるが、そんな私の想いは空(むな)しくも届かず。

 コツ…コツ…と微かに聞こえてくる足音が次第に大きくなっていく。

 そしてそれは、ピタリと私の前で止まってしまった。


「おい、黒猫。迎えに来たぞ」


___ドクン、と心臓が波打った。


(このイケボは………)


 恐る恐る、顔を上げる。

 スラリと長い足。モデル並みの小顔と長身。


「……逢阪竜也」


 私がそう呼ぶと、逢阪は、サングラス越しに軽く微笑んだ。


「名前、覚えてくれたのか」


 覚えたわけじゃない。

 この一週間、どういうわけか、記憶から消去してやろうと思っても……

 ……できなかっただけ………。


「鈴」

「……っ、」


 呼び捨てにされたのは、家族と大地以外では、初めてだった。



「表に車を停めてある。乗れ」
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