ノラネコだって、夢くらいみる
___ドクン


 まただ。心臓が、大きく揺れた。

 不意に名前を呼ぶな。

「うち、お金ないよ」

「それがどうした」

「あんたの会社の養成コースとかに入るのは無理だよ」

「問題ない」

 なにが問題ないの?

「部下から、〝面白い子が現れた〟と報告があった。なので俺は、自分の目で確かめに行ったんだ。あの日、あの場所に」

「一週間前、原宿に……?」

「ああ。報告書に細かに目を通すまでもない。すぐにお前のことだとわかったよ」

 その報告書とやらに、一体何が書いてあったか、とても気になるのだけれど。

 まさか目つきの悪い生意気なチビ、とは書いてないでしょうね?

「話を進めると、さっき言った通り、俺はお前とビジネスの付き合いがしたい」

「私にモデルや女優みたいなことさせるつもり?」

「みたいなこと、でなく。そのモデルや女優をしてもらう」

「ありえない」

「どうせ暇なんだろ?」

 失礼な。

 ……………暇だけど。

「なら働け」

 まだ、何も言っていないでしょうが。

 学生の本分は勉強だっていうのに。中学は義務教育なのに。

 そりゃ、私だって……

 働けるものなら、今すぐにでも働きたい。高校には行かず、中学を卒業してすぐ働きたいのが本音。

「………儲かるの?」

「お前次第」

「私には向いてないよ」

「俺は、そうは思わない」

「その根拠は?」

「俺がそう思うから」

「それじゃ、説得力に欠けるんじゃない?」

「これ以上の理由なんて、必要ないさ」

「どっからそんな自信が湧いてくるのよ」

「お前はなさすぎるんだよ」

「………え?」

「お前に圧倒的に足りないのが、自信だ」
< 25 / 212 >

この作品をシェア

pagetop