ノラネコだって、夢くらいみる
 それからいちるがタクシーでうちに来て、私を乗せて車は出発した。

「鈴、すっごい不細工」

 ………!!

 泣いて腫れてしまった目を隠そうと、慣れないメイクをしてきた。

「失礼ねっ」

「鈴はすっぴんが一番可愛いよ〜」

 ………いや、今、完全にお化けみたいになってるから。見たらビックリすると思うよ。

 タクシーが到着した場所、それは___河原だった。

 住宅街やお店の立ち並ぶ地域から外れたこの場所は、数メートルおきに立っている街灯の明かりを頼りに歩くしかない。

 人だっていない。近くに駅があったようにも思えないし、車でもなければ足の便が悪いからだろう。

「じゃーん!」

 車のトランクから取り出したのは、バケツ、それから大量の花火。

「夏と言えば、これだよねー」

「やるの?」

「もちろん」

 そう言って、先の長い着火ライターで、さっそく1本の花火に点火するいちる。

「ちょ、こっち向けたら危ないから!」

「すごいねー、鈴。こんなに燃えるんだね」

「呑気なこと言ってないで、あっちやってよ!」

「綺麗だねー。次は2本一気に燃やそうかな」

「もう、危ないから、いちるは線香花火だけしてて!」

「あはは、鈴の恐がり」

「マジメに危ないって言ってんの!!」

 マイペース王子は、花火にテンションがあがっているご様子です。

 ……でもまあ、気持ちはわかる。こんな暗い場所でやる花火は、格別に楽しい。家の庭でやるのとはワケが違う。

 モモも呼んであげたかったな。
< 97 / 212 >

この作品をシェア

pagetop