ノラネコだって、夢くらいみる
「浴衣着てこれば良かったねー」

「持ってないし」

「そうなの?じゃあ、買いに行くー?」

「……もうお店閉まってるんじゃない?」

「そっかー。じゃあ、来年は浴衣きてやろうね」

「来年?」

「うん」

「来年も花火するの?」

「するの」

「なんで?」

「単純に、来年も鈴と一緒にこうして花火したいなって、そう思っただけだよ」

「………!」

「鈴?」

「………」

「どうしたの?」

 やめて。いちる、今、こっち来ないで。

 今、私の顔見ないで。

「…………離れて、いちる」

「何があったの?今日」

「………!」

「話してよ」

 川のせせらぎが聞こえてくる。いちるの優しい声と、その音が、私の心を最大限に穏やかな気分にさせてくれる。

「そんなメイクしてごまかしてるけど。いっぱい泣いたんでしょ?」

「えっ……」

「目が腫れるくらいさぁ」

 いちるは、何もかも、お見通しなんだね。

「…………ねぇ、いちる」

「うん」

「何かを選ぶってことは……何かを失うことなの?」

「鈴は、大切なものを失ったの?」

「……わからない。でも、遠くなっちゃった」

 大地。

 昔から私にかまってくれて、放っておいてくれたらいいのにって思ってた。

 だけど、突き放されて初めてわかった。私、大地に、支えられてた。

 ほんとは、背中を押してもらいたかった。頑張れって言って欲しかった。
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