ノラネコだって、夢くらいみる
「大丈夫だよ、鈴」

「……?」

「今はちょっと、離れちゃっただけ」

「……そうかな?」

「失ってなんか、ないと思う」

「………」

「選ぶ、ってのは難しいよね。でも決断できた鈴は、えらいと思うよ」

「ありがと、いちる」

「よかった」

「なにが?」

「鈴の辛い時にそばにいることができて」

 ………!

「戻ろっか、車」

 そう言って、いちるが使い終わった花火の入ったバケツを持ち上げ、反対の手をこっちに差し出してくれる。

「繋ご。砂利道のとこ、気をつけないとね」

「………」

「鈴?」

 私は、いちるに差し出された手を、繋がなかった。

 …………繋げなかった。

 いちるの手は借りず、タクシーまで戻った。

 反則だよ、いちる。

 こんな時に、次から次へと、私を惑わせて。

 そんなことされたら、私………

 遠くの方で花火の音が聞こえる。

 どこかで花火大会があるのかな。

 ドン、ドン、ドドンと、激しくなっているその音は…

 まるで私の鼓動のよう。

 いちるといると、こんなにも、ドキドキしてしまう。



 これが、恋をするってことなのかな。

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