縁〜サイダーと5円玉と君の靴ひも〜
在花は変人だ。

でも、心には乙女が住んでいて、野山をはだしで駆け巡っているのだ。

変なところで純粋で傷つきやすい。

でも、時々、在花のそういうところをうらやましく思う時がある。


「確かめたの?」

在花は首を振った。

「聞いてみたら?」

「無理」

在花は心を閉ざしてしまっている。

辛く悲しいことに向き合わない。

「でも、本当のこと知りたいとは思わないの?もし違ってたら…」


「無理!ムリムリムリ」


在花は私の言葉を遮ると、ノソノソと階段を上がって部屋に引きこもってしまった。



そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、隣の琥珀に話しかける。

「理仁だよ?あり得る?」

「ないだろ」

「だよね」

私たちは外からしか見てないから、本当のことなんてわからないけど。

でも、理仁が在花に夢中なのはわかる。

いつだって、在花のことを目で追っているし、否定しない。

変人カップルだな、って思いつつも姉を不幸にするような奴だったら私達だって受け入れないよ。


母は今日は仕事で遅くなる日。

在花は部屋から出て来ず、私と琥珀の2人だけの食事。

私が作ったオムライスを二人で食べる。


二人だけで食事なんて滅多にない。話題をなんとなく探すと、やっぱりずっと気になってるあのこと。


「ねえ、莉葉ちゃんとはどうなの?」

「別に」

質問に動揺するわけでもなく。

目も合わせずご飯を食べている琥珀。

その無反応さに、私の意地悪心に火がつく。


「あ、そう…。まあ、琥珀ヘタレだもんね」


私の言葉に琥珀は箸を止めた。


イラッとしてる。でも、この手口に琥珀はいつも引っかかる。


こう言えば、琥珀の本音が聞けるのだ、単純な奴め。


「あのさ、俺達付き合ってるから。だいぶ前から」


「はい?」

動揺したのは私の方だ。

思った以上に大きな声が響いた。

手からスプーンが滑り落ちて、カーンとタイミングよく響く。

琥珀の顔を見ると、それはそれは意地悪そうな顔。


「ふっ…乃々夏、鈍感だからな」



今度は私の箸が止まる。

何とも言えないモヤモヤっとした気持ちが湧き上がってくる。


「ちょ、ちょっと!どういうこと?」


形成逆転。


「だから、莉葉と付き合ってるんだよ。莉葉は俺の、彼女」


悪そうな顔で笑ってるわ。

子どもの頃から何度も見てきた、この顔。


興奮しすぎて目眩がする。


「なんで言わないのよ!」

玄関に立つ莉葉ちゃんを思い出す。

莉葉ちゃんのキラキラの正体はこれなのね…


「面倒くせえじゃん」

やだ、琥珀が急に遠くに感じる。

琥珀…いつの間に。私、先越されてるし…


愕然とする私は、思わずこんな墓穴を掘るような質問をしてしまった。


「でもさ、付き合って何か変わったりするの?今までと変わらなくない?」


真剣な顔で、恋愛初心者マークを頭上に掲げたような発言する私の顔を見て、琥珀は爆笑し始める。


「乃々夏、ガキだからな」

な、なに?何なの。恋人になったらどうなるのよ…

ちょっと知りたいけど。琥珀に教えてもらうのは癪にさわるわ。

「年下のくせに」

精一杯の強がりで、私はご飯を食べて食べて食べ尽くして、琥珀の分まで食べて。

琥珀はそれを見ながらずっと笑っていた。



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