竜門くんと数学のお時間
「ところで吉野花」
「ハイ」
「お前の犬みたいな髪が邪魔で、全く黒板が見えないからそこを退け」
「……はぁい」
上から目線の竜門くんに、もはや対抗心はない。
返事をしたものの、ここを退くわけにはいかないので仕方なく頭を少し下げる。
……犬みたいな髪、かぁ。
私の髪型は、天然パーマでボブ。
ボブはボブでも天パのせいでぶわっと広がっている感じの髪型なのである。
確かにトイプードルとかキャバリアとかそういう犬に近いとは、まあ、思う。
それにしても、いつまで私は頭を下げていなければいけないのかな。
「りゅう、」
「吉野さーん、今寝る時間じゃないよー」
竜門くんの名前を呼ぼうとしたら、先生に注意されてしまった。
慌てて顔を上げて「起きてます!」と主張したが、時すでに遅し。
クラスのみんなは「いやー寝てただろー」とか「起き上がるの早っ」なんて言って笑っている。
「………っ」
みんなに注目されて笑われて、穴があったら入りたい衝動に駆られた。
それもこれも、竜門くんのせいだっ!
振り返ってキッと竜門くんを睨みつける。