アナタの過ち


毎日毎日飽きもせずメールをした。

どちらかが先に寝て、どちらかがおはようのメールをする。

途切れもなくいやらしさもなく、久しぶりに味わう感覚。


会ったこともないけれど、何も苦じゃなかった。


そしてある日。
その日は雨だった。

「今日何時に終わるの?」

夕方頃に届いたメール。

『21時です』

「雨だから迎え行くよ」

いきなりの発言にびっくりして、心臓が飛び出そうだった。

『本当ですか?』

「うん、21時に着くように行くね」

それから数時間。
ソワソワしながら仕事をした。

『お疲れ様です、お先に失礼します』

先輩に挨拶をして、待ち合わせ場所へ向かう。

目の前には黒い車。
ナンバーを確認し、助手席のドアを開けた。

『お疲れ様です』

運転席に座っている男に声をかける。
CDを変えている途中だった手が止まり、私の方へ顔を向ける。

その顔は驚きを隠せていない。

連絡も入れずに来たからかな?

「…お疲れ」

この男が、高田直哉。19歳。

茶髪にスウェットに、どこにでもいそうな男の子。

悪く言えば田舎っぽい。

まぁここは田舎だけど。

「早く入りな、濡れるよ?」

『あ、はい』

私はそのまま助手席に乗り込んだ。

『来てくれてありがとうございます』

「え?大丈夫だよ、雨だから大変かな?って思って」

こちらに目を向けずそういう彼の横顔を見る。

本当にそれしか考えてないみたい。

「それ、飲んでいいよ」

直哉が指差す方を見るとミルクティーが置いてあった。

メールでやり取りした好きな飲み物も覚えていた。

『ありがとうございます』

雨と風で氷のように冷たくなった私の手には、暖かいミルクティーが心地良い。


優しいなぁ。

単純な感想だった。


手だけじゃなく、心まで暖まっていくのを感じた。





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