小さな恋、集めました 【学園編・1ページの短編集】
年上幼なじみ・章兄と夜、通学路
 夜の学校って本当に怖い。職員室だけがぼうっと明るいのがさらに怖い。
 暗い校舎を出て、あたしは忘れ物の明日のテストのノートを胸に抱いた。隣を歩く章(しょう)兄(にい)を見上げてお礼を言う。
「章兄、ついてきてくれてありがと。夜の学校って怖くて、一人じゃ取りに来られなくて」
「ったく。いくら隣に住んでるからって、いつまでも俺を兄代わりにするな」
 章兄は前髪をかき上げながら、不機嫌な声で言った。その言葉にあたしは肩を落とす。
「そう、だよね」
 背が高くてサッカー部のエースの章兄。練習試合どころか普段の練習だって、たくさんの女子が見学に来てる。
 章兄はあたしの自慢の年上の幼なじみ。小さい頃から本物のお兄さんみたいに遊んでくれて、優しくしてくれて、頼らせてくれて……。
 気づいたら好きになってた。ずっと片想いをしてたけど……あたしみたいなチビがいつまでもまとわりついてたら迷惑だよね……。
「いいかげん妹を卒業してくれ」
 少しイラついた声で言われて、あたしはノートをギュッと抱いた。
 暗くてよかった。泣いちゃいそうだもん。
 声が震えそうで、早口で言う。
「ゴメン、もう迷惑かけない。一人でがんばる」
「そうじゃなくて」
 肩にそっと章兄の手が置かれた。驚いて顔を上げたら、目の前に章兄の優しい瞳がある。
「迷惑はかけてもいい。おまえの面倒は俺が見る。でも、これからは兄としてじゃなく、彼氏としてだからな」
「章兄?」
「兄(にい)もなし。いいな?」
 信じられないくらい嬉しくて、どうにかこくんと頷く。その顎をすくい上げられ、唇にチュッとキスされた。

【了】
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