Another moonlight
「アユミ、もしかしてオレと結婚したくないの?」

「そういうわけじゃないけど…。」

「じゃあ早く返事を聞かせてよ。オレはもうずいぶん待たされてるんだよ?」

確かにそうかも知れない。

タカヒコに結婚話を持ち掛けられてからどれくらい経つだろう?

(それどころじゃなかったもんな…。)

リュウトのこと。

ストーカー騒動。

そしてアキラとのこと。

結婚と言えば人生においての一大事なのに、初恋の人や友達のことが優先なんて、自分の中でタカヒコとの結婚はずいぶん低い位置付けだと気付いて、ユキは苦笑いを浮かべた。

(こういうところがガキなのかなぁ…。)



マナブはカウンター越しに、テーブル席でタカヒコと話しているユキを眺めていた。

相手はどうやらユキの彼氏らしい。

さっきからユキは家の見取図のようなものを手に首をかしげたり、うつむいたりしている。

(ユキちゃん…もしかしてあいつと結婚すんのか…?)

二人の会話の内容が気になったマナブは、皿にフルーツを盛り付け、他の客の注文したお酒と一緒にトレイに乗せて、ゆっくりと二人のテーブルに近付いた。

「アユミ、改めて聞くけど…オレと結婚してくれる?」

「………うん…。」

ユキは蚊の鳴くような細い声で返事をしてうなずいた。

マナブは動揺を隠しながら、二人の会話に耳をそばだてる。

「それじゃあ、この物件押さえてもいいかな?店の内装はアユミの好みに任せるよ。」

「…やっぱりここじゃないとダメ?」

「前も言ったけど…オレは少しでも長くアユミと一緒にいたいから、ここでアユミと一緒に店をやりたいんだ。1階が店舗で、2階が自宅。住居部分も広いし申し分ないだろ?」

「そうなんだけど…。ここ、高いでしょ?」

「手付金と頭金をある程度頑張って払えば、残りの月々の返済はかなりラクになるよ。」

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