Another moonlight
その頃マナブは、カウンター越しにユキと向かい合っていた。

エリコが被害にあいかけた結婚詐欺の話がタカヒコとの結婚話に酷似していて、おそらく同一人物だとユキが話すと、マナブはハッとした顔で、ああ!と声をあげた。

「そうだ、きっとそれだよ。」

「それ?」

「そのエリコさんって人の幼馴染み、オレの兄貴の友達の八代さんだ。八代さんがその男に話つけに行った時、オレと兄貴、八代さんに頼まれてすぐそばで見てたから。」

「そうなの…?すごい偶然…。」

「八代さんにもしもの時は助けてくれって言われただけで、あまり詳しく教えてくれなかったから、ユキちゃんの話聞いてもピンと来なかったんだよな。」

エリコという絶好のカモを逃してしまった後、おそらくタカヒコはしばらく別の場所で他の獲物を探していたのだろう。

マナブはエリコの一件からユキがこの店にタカヒコを連れてくるまで、この界隈でその姿を目にしたことはなかった。

「顔見たのは一度きりだし、もう8年も前のことだから忘れかけてたんだ。そうか、あの時のあいつか…。」

マナブは気になっていたことをやっと思い出せてスッキリしたのか、清々しい顔をしている。

「まさか私が結婚詐欺に狙われるなんてね…。かなりショック。」

ユキは肩を落としながらビールを飲んだ。

「それで?そいつとはどうなってる?」

「ああ…お金催促されたんだけど、もう少ししたらまとまったお金が入るからそれまで待ってって言った。」

「で、どうする?警察につき出すか?」

マナブがレーズンチョコを小皿に盛りながら尋ねると、ユキは顔をしかめた。

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